「尖閣」で日本を中国から引き戻した米国   成瀬裕史

■予定調和的な「日米首脳会談」

 オバマ米大統領を「国賓」で招いた日米首脳会談。
 4月24日の共同記者会見では、オバマ大統領が尖閣諸島について「日米安保条約の適用対象」と明言し、海洋進出を強める中国をけん制。
 一方、オバマ政権が「アジアのリバランスの重要な一面」と位置づけるTPPに関し、安倍首相は「前進していく道筋を確認することができた」と述べた。

 マスコミ諸氏も今回の首脳会談に対し、「日米間の密接な同盟関係を再確認」「連携強化を強く打ち出すことに成功」など、何時もながらではあるが予定調和的に「一定の評価」を与えている。


■「自主外交」を試みた“小・鳩”政権

 日米首脳会談の度に「我が国は米国の属国か!?」と情けなく思う国民も少なくないと思われるのだか、そんな我が国でも、「自主外交」を試みた時代があった。
 小沢一郎氏と鳩山由紀夫氏のコンビで「政権交代」を実現した“小・鳩”政権の時代である。

 小沢氏は政権交代前、「米国の極東でのプレゼンスは第7艦隊だけで十分」発言し、政権交代後、「小沢訪中団」で民主党議員を大挙訪中。 鳩山氏も、「東アジア共同体構想」を打ち出すなど、“小・鳩”政権は、中国にも重きを置く「自主外交」を試みた。

 しかし、このような動きに対し、米政府高官は「鳩山政権の対は自民党政権と全く違う」「岡田克也氏や菅直人氏らに直接働き掛けるべき」と警戒していたことが、後にウィキリークスで明らかになっている。


■“W辞任”で潰えた「自主外交」

 小沢氏の「第7艦隊発言」の直後、氏の公設秘書が「西松建設」事件で逮捕された。
 このため、小沢氏は民主党代表を辞任。鳩山氏が後任として臨んだ総選挙で民主党が圧勝し「政権交代」が実現した。

 しかし、その秋に鳩山氏がAPECで「東アジア共同体構想」をアピールした直後、鳩山氏の実母からの献金が発覚した。

 また、年末に小沢訪中団、が退去して訪中した直後の翌年1月、小沢氏の資金管理団体「陸山会」事件で石川知裕議員らが逮捕された。

 また、「普天間移転」問題で「最低でも県外」を唱えていた鳩山氏は、米紙に「ルーピー」と揶揄され、結論を出すとした5月には沖縄を訪問し「県外移設断念」を陳謝し、
同時期の小沢氏の検察審査会での「起訴相当」議決と相俟って、両氏への「メディアスクラム」による“バッシング”が続き、翌6月、両氏は「W辞任」した。


■「尖閣」から「従米路線」に回帰?

 “小・鳩”を引き継いだ菅直人氏は、小沢氏について「しばらくは静かにしていただいたほうが本人にとっても、民主党にとっても、日本の政治にとってもいい」と述べ、前政権と距離を置く姿勢を明確化した。

 こうした中、9月に尖閣諸島で中国漁船衝突事件が発生。海上保安庁は船長を公務執行妨害で逮捕。親米派(?)の前原国交相は「領土問題はない」と強調、早期釈放には応じないとした。

 しかし、その月末には「高度な政治判断」により那覇地検は中国人船長を処分保留で釈放。仙谷官房長官はその処分を容認した。

 翌月、前原氏との会談したクリントン米国務長官は、尖閣諸島は「日米安保条約第5条の適用対象になる」と明言。

 その翌月、菅首相はAPEC最高経営責任者サミットで、「TPP協議開始」を表明し、オバマ大統領も「輸出倍増計画の大部分はアジアにあり、TPPはその一環」と演説。

 「尖閣」事件を契機に、民主党政権は「自主外交」から「従米路線」に回帰していったように思われる…。


■対中関係“悪化”を決定的にした「尖閣国有化」

 その2年後の4月、石原都知事がワシントンのヘリテージ財団主催のシンポジウムで行った講演で、尖閣諸島を買い取る方向を明らかにし、これに慌てた野田内閣は、9月に尖閣諸島を“国有化”した。

 これに対し中国世論は「大反発」し、同年11月の党大会で総書記に就任した習近平氏も「対日強硬姿勢」により政権のスタートを切り、1年後、中国は、尖閣諸島の上空も含む東シナ海の防空識別圏を設定するに至る…。


■「高い代償」を伴う「従米」復帰!?

 こうした経緯の中、“極東”で開かれた日米首脳会談では、「尖閣」での中国に対する“牽制”と、アジア太平洋地域重視の「リバランス政策」の一環としての「TPP」の重要性が再認識される形となった。

 5年前、政権奪取が確実といわれた民主党の小沢一郎代表の「第7艦隊」発言から、「自主外交」路線に舵を切った我が国ではあったが、“小・鳩”両氏の失脚と、「尖閣」事件を経て、自民党が「政権復帰」し、気が付けば「従米路線」にしっかりと、逆戻りしている。

 「TPP」という高い代償とともに…。


(以下、この5年間の年表を記載する)

2009年2月25日
小沢一郎氏「米国の極東でのプレゼンスは第7艦隊で十分」発言

3月3日
 小沢氏の政策秘書が「西松建設」事件で逮捕

8月30日
 第45回衆議院議員総選挙で民主党が圧勝し「政権交代」

10月9日
鳩山首相、APEC首脳会議で「東アジア共同体構想」をアピール

11月25日
 鳩山氏、実母からの献金が発覚

12月10日~13日
 小沢訪中団、民主党議員143名と一般参加者など483名で訪中

2010年1月15日
 小沢氏の資金管理団体「陸山会」事件で、石川知裕議員らが逮捕

2月3日
 米・韓政府高官の会談で「鳩山政権の対北朝鮮政策は自民党政権と全く違う」「岡田克也外相や菅直人財務相らの主要メンバーに直接働きかけることが重要」との認識で一致(同年11月のウィキリークスで明らかに)
 
4月13日
 鳩山首相、オバマ大統領と約10分間の意見交換。ワシントン・ポスト「ルーピー(loopy: 間抜けな)日本国総理大臣」と揶揄

4月27日
 小沢氏、「陸山会」事件で検察審査会から「起訴相当」議決

5月4日
 鳩山氏、沖縄を訪問し「県外移設断念」を陳謝

6月2日
 鳩山氏は民主党両院議員総会で小沢氏との「W辞任」を表明

9月7日
 尖閣諸島中国漁船衝突事件で海上保安庁は船長を公務執行妨害で逮捕
 前原国交相は「領土問題はない」と強調、早期釈放には応じないとした

9月24日
 那覇地方検察庁は中国人船長を処分保留で釈放すると発表
 本決定を仙谷由人官房長官は容認

10月27日
 ヒラリー・クリントン米国務長官は前原氏との会談後、尖閣諸島は「日米安保条約第5条の適用対象になる」と明言

11月13日
 菅首相はAPEC最高経営責任者サミットで、TPP「協議開始」を表明
 オバマ大統領も同サミットで、輸出倍増計画の大部分はアジアにあり、TPPはその一環と演説

2011年11月
 オバマ大統領は豪州訪問時、アジア太平洋地域を「最優先事項の一つ」であると述べ、後に「リバランス」と呼ばれる政策を明らかにした

2012年4月16日
 石原都知事(当時)はワシントンのヘリテージ財団主催のシンポジウムで行った講演で、尖閣諸島を買い取る方向を明らかにした

9月10日
 野田内閣、尖閣諸島の国有化を閣議決定

11月15日
 中国党大会で、習近平氏が総書記と中央軍事委員会主席に選出

2013年11月23日
 中国は、尖閣諸島の上空も含む東シナ海の防空識別圏を設定

2014年4月24日
 オバマ大統領は、安倍首相との首脳会談後の共同記者会見で、尖閣諸島が日米安保条約の適用対象でであることを明言
 また、TPP交渉における両国間の農産物や自動車問題等が決着する段階にあり、包括的合意には大胆な手法が必要との認識を表明

  • 領土帰属問題 --- 八代 勝美 (2014/05/01 13:07:10)
  • 成瀬様の小論考 読ませて頂きました。私は、2011年頃から、孫崎 享様の緒著書および論稿読んでいますが、基本的に日本外務省はUSAの顔色伺い施策進めてきたということに尽きると思います。そして一部を除けば、外務官僚は国民の方を向いて仕事していません。 --- 八代 勝美 (2014/05/01 13:08:59)

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  • 最終更新:2014-04-29 14:40:27

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